スチーマーやフェイシャルベッド、脱毛機器を購入したとき、請求書に本体代金のほかに「配送料」「据付工事費」「登録手数料」などが並んでいて、どこまでを固定資産の金額(取得価額)に含めればいいのか迷った経験はないでしょうか。
含める・含めないの判断を誤ると、減価償却費の計算がずれ、毎年の経費計上額に影響し続けます。また、少額減価償却資産の特例(一定要件を満たす青色申告者が取得価額が一定額未満の資産をその年に全額経費にできる制度)を使えるかどうかの判定にも直結します。
この記事では、国税庁タックスアンサー No.5400「減価償却資産の取得価額に含めないことができる付随費用」をもとに、サロンオーナーが実際に直面しやすい費用項目ごとに、算入・除外の判断基準を整理します。
この記事でわかること
- 固定資産の取得価額の「原則」と「例外(除外できる費用)」
- 配送費・据付費・登録費用・借入金利子などの判定基準
- 個人事業主(所得税)と法人(法人税)で扱いが異なる費用
- 少額減価償却資産の特例への影響(2026年改正含む)
- よくある判断ミスとその原因
- 専門家に相談した方がよいケース
まず結論
固定資産の取得価額は、購入代価+その資産を事業に使えるようにするために直接かかった費用の合計が原則です。配送費・据付費・輸送保険料・購入手数料・関税などは、原則として取得価額に含める必要があります。
一方、国税庁タックスアンサー No.5400 が列挙する「含めないことができる費用」に該当する場合は、取得価額に算入せず経費として処理することを選べる場合があります。ただし、個人事業主(所得税)と法人(法人税)で扱いが異なる項目があるため、自身の状況に応じた確認が必要です。
取得価額の基本的な考え方
固定資産(減価償却資産)の取得価額は、次の2つの合計が原則です。
- 購入代価:本体の購入価格(値引き後の実際の支払額)
- 事業の用に供するために直接要した費用:その資産を使える状態にするまでに必要だった費用
「直接要した費用」の典型例は以下のとおりです。この取り扱いは個人事業主・法人で共通です。
| 費用の種類 | 具体例(サロンでの場面) | 取得価額への算入 |
|---|---|---|
| 引取運賃・配送費 | 脱毛機器をメーカーから運んでもらった送料 | 原則:算入 |
| 荷役費 | 重い美容機器を搬入する際の作業員費用 | 原則:算入 |
| 運送保険料 | 輸送中の損害に備えた保険料 | 原則:算入 |
| 購入手数料 | 業者経由で購入した際の仲介手数料 | 原則:算入 |
| 据付工事費 | フェイシャルベッドや給排水が必要な機器の設置費 | 原則:算入 |
| 関税 | 海外メーカーから直輸入した機器にかかる関税 | 原則:算入 |
これらは「資産を購入するために要した費用」または「使えるようにするために直接かかった費用」に該当するため、取得価額に含める処理が基本です。
取得価額に「含めないことができる」費用と、個人・法人の違い
国税庁タックスアンサー No.5400(対象税目:法人税)では、取得に関連して支出した費用であっても取得価額に算入しないことができると定めている項目が列挙されています。ただし、個人事業主(所得税)の場合、とくに租税公課の扱いが法人と異なります。以下で項目ごとに確認します。
① 租税公課(不動産取得税・登録免許税など)【個人と法人で扱いが異なる】
登録や届出のために支払う租税公課については、個人事業主と法人で扱いが異なります。
| 費用 | 法人(法人税)の扱い | 個人事業主(所得税)の扱い |
|---|---|---|
| 不動産取得税 | 任意で取得価額から除外可(法基通7-3-3の2) | 必要経費に算入する(所基通37-5) |
| 新増設に係る事業所税 | 任意で取得価額から除外可(法基通7-3-3の2) | 必要経費に算入する(所基通37-5) |
| 建物など一般資産の登録免許税・登記費用 | 任意で取得価額から除外可(法基通7-3-3の2) | 取得価額に算入しない(除外が原則。所基通49-3(3)) |
| 自動車・船舶・航空機の登録免許税 | 任意で取得価額から除外可(法基通7-3-3の2) | 任意で取得価額から除外可(所基通49-3(2)) |
| 特許権・鉱業権など登録により権利が発生する資産の登録免許税 | 任意で取得価額から除外可(法基通7-3-3の2) | 取得価額に算入する(除外不可。所基通49-3(1)) |
ポイント(個人事業主):所得税基本通達49-3は、登録免許税について資産の種類ごとに扱いを次のように分けています。
- 特許権・鉱業権のように登録により権利が発生する資産:取得価額に算入する(選択の余地なし)
- 自動車・船舶・航空機のように業務の用に供するについて登録を要する資産:取得価額に算入しないことができる(任意)
- 上記以外の資産(建物など):取得価額に算入しない(除外が原則。必要経費として処理)
また、不動産取得税・事業所税等については、所得税基本通達37-5により、業務の用に供される資産に係るものとして必要経費に算入することとされています。
法人は「任意で選べる」のに対し、個人は資産の種類によって算入する・しないが決まっているケースがある点が大きな違いです。
② 建設計画の変更により不要になった調査・設計費用
建物を建設しようとして調査・測量・設計・基礎工事等を進めたものの、建設計画を変更して不要になった場合の費用が対象です。この取り扱いは個人・法人で共通です。
サロンの内装工事を依頼したが設計プランを根本から変更し、最初の設計費が無駄になったケースなどが該当します。
③ 契約解除に伴う違約金
いったん締結した資産取得の契約を解除して別の資産を取得し直した場合の違約金です。この取り扱いは個人・法人で共通です。「A社のレーザー機器を発注したが、より性能の良いB社製に変えることにして解約した際の違約金」のような場面が考えられます。
④ 使用開始までの期間に係る借入金の利子
機器購入のためにローンや融資を受けた場合、その機器を実際に使い始めるまでの期間に対応する利子は、取得価額に含めないことができます。この取り扱いは個人・法人で共通です。
使用開始後の期間に対応する利子は期間の経過に応じて経費(損金)にするため、取得価額とは別で処理します。たとえば、脱毛機器を3月に購入・搬入して設置工事の関係で使用開始が5月になった場合、3〜4月分の借入利子は取得価額から除くことができます。
⑤ 割賦購入における利息・代金回収費用
分割払い(割賦販売)で購入した資産の場合、契約書上で購入代価と利息・手数料が明確に区分されているときは、その利息・手数料相当額を取得価額から除くことができます。この取り扱いは個人・法人で共通です。
美容機器の分割払い契約書を確認したとき、「機器代金○○円」「分割手数料○○円」のように明記されていれば、手数料部分は取得価額に含めない選択が可能です。総額のみ記載で区分が不明の場合は、全額を取得価額に含めて処理します。
少額減価償却資産の特例と取得価額の関係
取得価額の判定は、少額減価償却資産の特例が使えるかどうかに直結します。青色申告を行っている一定要件を満たす中小事業者(個人・法人)は、一定額未満の減価償却資産をその年に全額経費にできる特例があります。
| 取得等の時期 | 特例の対象となる取得価額の上限 | 年間の上限 |
|---|---|---|
| 令和8年3月31日以前 | 30万円未満 | 300万円 |
| 令和8年4月1日以後 | 40万円未満 | 300万円 |
注意が必要なのは、「取得価額に何を含めるか」によって特例の利用可否が変わる点です。
たとえば、本体代金が38万円の機器を購入し、据付費が3万円かかった場合、据付費を算入すると41万円となり令和8年4月1日以後の取得でも特例対象(40万円未満)を超えます。据付費は「使えるようにするために直接かかった費用」として原則算入すべき費用であり、任意除外できる項目には該当しません。除外できる費用とできない費用を正確に区別しないと、特例の適用判定を誤るリスクがあります。
なお、この特例は青色申告であることが要件です。白色申告のサロンオーナーには適用されません。
よくある判断ミスとその原因
ミス①:据付費・施工費を「別費用だから経費にできる」と考える
請求書上で本体代金と据付費が分けて記載されていると「別の費用だから経費処理できる」と誤解しやすい点があります。しかし請求書の記載形式ではなく「その費用が資産を使える状態にするために直接要したものかどうか」で判断します。
ミス②:個人事業主でも登録免許税を「任意で選べる」と思い込む
法人の場合は登録免許税を任意で取得価額から除外できますが、個人事業主の場合は資産の種類によって扱いが異なります。建物など一般の資産では取得価額に算入しないのが原則であり、特許権・鉱業権など登録により権利が発生する資産では必ず算入します。「法人と同じように選べる」という思い込みには注意が必要です。
ミス③:割賦手数料の区分を確認しないまま全額を取得価額にする
分割払いの場合、手数料が明確に区分されていれば取得価額から除けますが、契約書を確認しないまま支払総額をそのまま取得価額にしてしまうことがあります。購入時に契約書の記載内容を確認するだけで処理方法が変わります。
ミス④:借入金利子を「全額取得価額に含める」とする
使用開始前の利子は取得価額に含めないことができますが、使用開始のタイミングを明確に把握しておき、それより前の利子と後の利子を分けて管理することが必要です。
自分で確認できるチェックリスト
資産を取得したとき、以下の順で確認すると判断しやすくなります。
- 購入代価(本体価格)はいくらか確認した
- 請求書に本体以外の費用が含まれているか確認した
- その費用は「使える状態にするために直接かかった費用」かどうか判断した
- 法人の場合:任意除外できる5項目(不動産取得税等の租税公課・計画変更で不要になった設計費等・解約違約金・使用開始前の借入利子・割賦の利息・手数料)に該当しないか確認した
- 個人事業主の場合:登録免許税は資産の種類(一般資産・自動車等・特許権等)ごとに扱いを確認した
- 割賦購入の場合、契約書で代金と手数料が区分されているか確認した
- 取得価額の合計と少額減価償却の特例の上限(取得等時期に応じて30万円未満または40万円未満)を照合した
- 青色申告かどうか確認した(特例の要件)
税理士に相談した方がよいケース
次のような状況では、自己判断より専門家への確認をお勧めします。
- 取得価額が少額減価償却の特例の閾値(30万円・40万円)の近辺にあり、含める・含めないで特例の適用可否が変わる場合
- 機器購入と内装工事・設置工事が一体の請求書になっており、費用の性質の切り分けが難しい場合
- 海外から機器を直輸入しており、関税・輸送保険・検査費用など複数の費用が発生している場合
- 融資・ローンを使った購入で、使用開始時期と利子の期間配分が複雑な場合
- 建物(居抜き物件の改装や新築)に関わる取得価額の判定が必要な場合
- 個人事業主として特許権・商標権など登録により権利が発生する資産を取得した場合
まとめ
固定資産の取得価額の判定を整理すると、次のようになります。
- 原則として含める:購入代価、配送費・荷役費・運送保険料・購入手数料・据付費・関税(個人・法人共通)
- 個人・法人で扱いが異なる:登録免許税・不動産取得税・事業所税等の租税公課(資産の種類と申告形態を確認)
- 任意で除外できる(個人・法人共通):計画変更で不要になった設計費等、解約違約金、使用開始前の借入利子、割賦契約で明確に区分された手数料
取得価額の積み上げ方を誤ると、減価償却費の計算がずれ続けるだけでなく、少額減価償却の特例の適否にも影響します。費用の請求書が届いた時点で、それが任意除外できる項目かどうか、個人・法人で扱いが異なる項目に該当しないかを確認する習慣を持つことが、記帳の精度を高める第一歩です。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
サロン経営では、開業届から日々の記帳、消費税の届出判断まで、段階ごとに異なる税務対応が必要です。「今の自分に必要な手続きは何か」を整理したい方は、お気軽にご相談ください。
毛利順活税理士事務所では、初回のご相談を無料で承っております。お気軽にお問い合わせください。