この記事でわかること
ECの売上が伸びてきたタイミングで「配偶者や家族に手伝ってもらいながら、給与として経費にしたい」と考える個人事業主の方は少なくありません。
ただし、個人事業主が家族に支払う給与は、何もしなければ原則として経費になりません。 経費にするには「青色事業専従者給与」の届出と、いくつかの要件を満たすことが必要です。
この記事では、国内EC物販を営む個人事業主の方に向けて、家族を従業員にするときの制度の基本・要件・よくある誤解・実務上の注意点を整理します。
なぜ「家族への給与」は原則、経費にならないのか
所得税法では、個人事業主と生計を一にする配偶者やその他の親族(以下「生計一親族」)に支払う給与は、原則として必要経費に算入できないと定められています(所得税法第56条)。
これは家族間での恣意的な利益移転を防ぐための規定です。「夫婦で運営しているのに片方の売上を給与に分散する」ような操作ができないようにしています。
ただし、この原則には例外があります。それが**青色申告者向けの「青色事業専従者給与」**です(所得税法第57条、国税庁タックスアンサー No.2075)。
青色事業専従者給与とは
青色事業専従者給与は、青色申告をしている個人事業主が、一定の要件を満たした上で事前に届出をすることで、生計一親族への給与を必要経費として扱える制度です。
適用を受けるための3つの要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 青色申告であること | 事前に青色申告承認申請書を税務署へ提出済みであること |
| ② 届出書の提出 | 「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出すること |
| ③ 専従者の状態 | 生計一の配偶者または親族で、その年を通じて6か月超(※)、専らその事業に従事していること |
※ 年の途中で事業を開始した場合や、専従者が途中から従事した場合は、従事可能期間の2分の1超でよいとされています。
届出書の提出期限
| タイミング | 提出期限 |
|---|---|
| 開業時(初年度) | 業務開始の日から2か月以内 |
| 年の途中から専従者を追加する場合 | 追加する日の属する年の3月15日まで(年の途中からの場合は追加日から2か月以内) |
| 翌年以降も継続する場合 | 変更がなければ再提出不要(給与額を変更する場合は変更届が必要) |
実務メモ: 届出書の提出を忘れていると、実際に給与を支払っていても経費として認められません。「払い始めてから届出を出す」ことはできないため、動く前に届出書を出すことが大原則です。
給与額の設定で気をつけること
届出書には「給与の金額」を記載します。この金額設定には重要なルールがあります。
給与の金額は、労務の対価として相当であることが必要です。
具体的には以下の点に注意してください。
- 同種の業務を外部の従業員に委託する場合の相場と比較して、著しく高い金額は認められない可能性があります
- 届出に記載した金額の範囲内でしか経費にできません(届出を超える金額を支払っても、超過分は経費不算入)
- 実態のない給与(実際には働いていないのに支払う)は否認されます
国内EC物販であれば、梱包・発送作業、商品登録・在庫管理、カスタマー対応といった業務が典型的です。これらの業務量に対して、近隣のアルバイト相場などを参考に金額を設定するのが合理的です。
よくある誤解:「配偶者控除と両方使える?」
家族を青色事業専従者にした場合、その家族については配偶者控除・扶養控除を適用できなくなります。
これは見落とされやすい点です。
| ケース | 適用できる控除 |
|---|---|
| 配偶者を専従者にしない(専ら手伝いがない) | 配偶者控除(所得要件あり)が使える可能性あり |
| 配偶者を青色事業専従者にする | 専従者給与を経費にできる。ただし配偶者控除は使えない |
どちらが有利かは、専従者給与の額・配偶者の所得状況・事業の規模によって異なります。一般的には、売上が一定以上あり、配偶者が実質的に業務を担っているケースでは専従者給与の方が節税効果が大きい場合がありますが、ケースバイケースです。
(参考:国税庁タックスアンサー No.1191「配偶者控除」)
専従者給与を支払うと生じる実務上の義務
専従者給与は税務上「給与所得」として扱われるため、事業主側には以下の実務が発生します。
| 実務 | 内容 |
|---|---|
| 源泉徴収 | 毎月給与から所得税を天引きし、翌月10日までに納付(納期の特例あり) |
| 年末調整 | 専従者についても年末調整を行う |
| 給与支払報告書の提出 | 翌年1月末までに市区町村へ提出 |
| 帳簿への記録 | 給与台帳・勤怠記録を整備しておく |
実務メモ: 家族への給与でも源泉徴収・年末調整は省略できません。「家族だから書類は不要」と考えていると、税務調査時に実態のある給与と認めてもらいにくくなります。勤怠記録や業務日誌を残しておくことが、後のトラブル防止につながります。
自分で判断できるケースと、専門家に相談すべきケース
自分で進めやすいケース
- すでに青色申告をしており、届出書の提出だけが未了
- 配偶者に特定の業務(梱包・発送など)を担当させ、相場に近い金額を設定する場合
- 給与額が少額で、源泉徴収・年末調整の手順を理解している場合
専門家への相談をお勧めするケース
- 青色申告をまだしていない(まず承認申請から必要)
- 専従者給与を払うか・配偶者控除を使うか、どちらが有利か判断したい
- 売上規模が大きくなり、法人化も視野に入れている
- 複数の家族(配偶者+子ども等)を専従者にしたい
- 給与額の設定が妥当かどうか確認したい
セルフチェック:自分に当てはまるか確認してください
以下の項目を確認することで、次のアクションが見えてきます。
| チェック項目 | 確認結果 |
|---|---|
| 青色申告承認申請書を提出済みか | はい → 次へ / いいえ → まず承認申請が必要 |
| 専従者給与の届出書を提出済みか | はい → 給与の支払・源泉徴収へ / いいえ → 届出書を先に提出 |
| 専従者が年間6か月超、業務に専従しているか | はい → 要件を満たす可能性あり / いいえ → 専従者として認められない可能性あり |
| 給与額は労務対価として相当な水準か | 自信がある → 届出どおりで進める / 不安 → 税理士に確認 |
| 配偶者控除との比較検討が必要か | どちらが有利か迷う場合 → 専門家に相談 |
まとめ
個人事業主が家族を従業員として給与を経費にするには、青色申告+事前の届出書提出+専従要件の充足が必要です。届出なしに給与を支払っても経費にならず、配偶者控除との併用もできない点は特に注意が必要です。
EC売上の拡大に伴い家族の関与が増えてきた段階は、この制度を活用するタイミングの一つです。ただし、有利不利の判断・給与額の設定・源泉徴収の実務は、状況によって判断が分かれる部分もあります。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
仕入税額控除の要件や帳簿の付け方は、取扱商品や販売チャネルによって異なります。「自分のケースではどうなるか」を確認したい場合は、税理士への相談がおすすめです。
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