配信環境を整えるたびに「この機材費、確定申告でどう処理すればいいのか」と手が止まる方は少なくありません。
- キャプチャボードは消耗品として全額経費にできるの?
- マイクやWebカメラは減価償却しないといけない?
- 青色申告の特例を使えばまとめて経費にできると聞いたけど、条件は?
- プライベートとの兼用機材は全額経費にしていいの?
機材の購入金額と申告方法の組み合わせを間違えると、経費の計上タイミングがずれて申告内容に誤りが生じます。以下では、ライブ配信・ゲーム実況をする方が直面しやすい機材費の経費計上について、判断の軸から実務的な処理まで順を追って解説します。
この記事でわかること
- 配信機材を「即時経費」にできる条件と「減価償却」が必要になる条件
- 少額減価償却資産の特例(青色申告者向け)の内容と2026年の改正ポイント
- キャプチャボード・マイク・照明など機材別の処理の考え方
- プライベート兼用機材の按分ルール
- 帳簿への記載と証憑の保存方法
まず結論:購入金額で処理が変わる
配信機材の経費計上は、取得価額(購入金額)によって処理方法が三段階に分かれます。消費税の経理方式(税込・税抜)によって判定に使う金額が変わる点は、後ほど詳しく触れます。
| 取得価額(1点あたり) | 処理方法 | 対象者 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 購入した年に全額経費(消耗品費等) | 全員 |
| 10万円以上20万円未満 | 3年間で均等に経費(一括償却資産)または減価償却 | 全員 |
| 10万円以上40万円未満(令和8年4月1日以後取得) | 購入した年に全額経費(少額減価償却資産の特例) | 青色申告者のみ |
| 40万円以上(令和8年4月1日以後取得) | 法定耐用年数で減価償却 | 全員 |
国税庁タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」によれば、使用可能期間が1年未満のもの、または取得価額が10万円未満のものは、取得に要した金額の全額を業務の用に供した年分の必要経費とすることができます。10万円以上になると減価償却の対象となり、使用可能期間(法定耐用年数)にわたって分割して必要経費に算入していく手続きが必要です。
この記事の対象になる方
- YouTubeやTwitchでライブ配信・ゲーム実況をしている個人(個人事業主として申告している方)
- 副業として配信活動をしており、雑所得または事業所得で申告している方
- キャプチャボード・マイク・Webカメラ・照明・配信用PCなどを購入した、または購入を検討している方
法人として活動している場合は法人税の取り扱いとなり、一部ルールが異なります。本記事は所得税(個人)の取り扱いを前提に解説します。
配信機材ごとの処理の考え方
まず、ライブ配信でよく使われる機材を取得価額の目安別に整理します。
| 機材の例 | 取得価額の目安 | 一般的な処理 |
|---|---|---|
| ゲームパッド、小型マイク、簡易照明 | 1万〜3万円台 | 10万円未満 → 全額即時経費 |
| キャプチャボード(中〜上位モデル) | 2万〜8万円台 | 10万円未満 → 全額即時経費 |
| コンデンサーマイク(高性能モデル) | 3万〜12万円台 | 10万円未満なら即時経費、超えるなら特例または減価償却 |
| 配信用ミキサー、高性能Webカメラ | 3万〜20万円台 | 金額次第で処理が変わる |
| 配信専用PC・ゲーミングPC | 15万〜30万円超 | 特例または減価償却(青色申告者は特例適用可の場合あり) |
取得価額の判定は、1点(1台)ごとの金額で行います。まとめて買ったセット商品でも、個々の資産として分けて判定できる場合は分けて考えます。逆に、単独では機能しない付属品を含めてひとつの資産として取得した場合は合算します。
耐用年数と減価償却の考え方
減価償却が必要な場合、配信機材(カメラ・マイク・キャプチャボードなど電子機器類)は一般に「器具及び備品」として耐用年数が定まります。実務上は主に5年(耐用年数省令の別表第一による)が適用されるケースが多いですが、個別の機材の種類によって異なるため、耐用年数省令の別表や国税庁の「主な減価償却資産の耐用年数表」で確認することが必要です。
個人事業者の法定の償却方法は定額法です(届出をすれば定率法への変更も可能ですが、届出が必要です)。
青色申告者が使える少額減価償却資産の特例
特例の概要
青色申告者は、一定の要件を満たす減価償却資産を購入した年に全額経費にできる「少額減価償却資産の特例」を使えます。
この特例は、青色申告者で一定の要件を満たす場合に、取得価額が一定額未満の減価償却資産(一括償却資産の対象を除く)について、取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの金額をその業務の用に供した年分の必要経費に算入できるというものです。対象となる取得価額の基準は、取得等をする日によって異なります。
令和8年4月1日以後の改正点
国税庁が公表している「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」によれば、令和8年4月1日以後に取得等する減価償却資産については、この特例の取得価額基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、適用期限が3年延長されました。個人事業者にも同様の措置が講じられています(措法28の2)。
| 取得等の時期 | 特例の対象となる取得価額 | 年間上限合計額 |
|---|---|---|
| 令和8年3月31日まで | 10万円以上30万円未満 | 300万円 |
| 令和8年4月1日以後 | 10万円以上40万円未満 | 300万円(変更なし) |
つまり、令和8年4月1日以後に30万円台の配信用PCや高性能カメラを購入した場合も、青色申告者であれば購入年に全額経費にできる可能性があります。年間の上限300万円は変わらないため、複数の機材を同一年に購入する場合は合計額に注意が必要です。
特例を使う際の注意点
No.2100(注4)にあるように、取得した資産を貸付けの用に供したもの(主要な業務として行う貸付けを除く)は、この特例の適用がありません。自分が使う配信機材であれば通常は問題ありませんが、機材を他者に貸し出すケースがある場合は確認が必要です。
また、取得価額の判定に際して消費税を含めるかどうかは、納税者の経理方式によります(No.2100 注5)。税込経理であれば消費税込みの金額で、税抜経理であれば消費税を除いた金額で判定します。消費税免税事業者は税込経理が原則です。
プライベート兼用機材の按分
配信専用に購入した機材であれば全額が経費の対象になりますが、私生活でも使うPCやカメラ、マイクなどは業務使用の割合(按分)を計算して必要経費の額を算出します。
按分の考え方として実務でよく使われるのは、「配信・動画制作に使った時間」を「総使用時間」で割る方法です。ただし、按分割合の根拠は帳簿や記録として残しておく必要があります。感覚的な数字ではなく、配信時間の記録や使用ログを残しておくと、税務調査の際に説明がしやすくなります。
国税庁タックスアンサー No.2210「やさしい必要経費の知識」では、業務の遂行上直接必要であったことが明らかにできるものが必要経費になるとされています。兼用機材については、業務使用部分が明らかであることを示す根拠が重要です。
帳簿への記載と証憑の保存
帳簿への記載方法
機材を購入した際の帳簿の記載内容は、取得価額によって科目が変わります。
| 取得価額 | 帳簿上の科目(例) |
|---|---|
| 10万円未満 | 消耗品費(または工具器具備品費) |
| 10万円以上・一括償却資産として処理 | 一括償却資産 |
| 10万円以上・少額減価償却資産の特例適用 | 消耗品費 または 工具器具備品(取得年に全額計上) |
| 減価償却資産として処理 | 工具器具備品(固定資産台帳に登録し、毎年償却費を計上) |
国税庁タックスアンサー No.2080 によれば、不動産所得・事業所得・山林所得のある方は、収入金額や必要経費に関する日々の取引の状況を記帳し、取引に伴い作成・受領した書類を保存する必要があります。雑所得の方でも、前々年の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える場合は記録保存が義務となります。
保存しておくべき書類
- 機材の購入レシートまたは領収書(購入日・金額・品名が確認できるもの)
- ECサイト(Amazon・楽天等)での購入の場合は注文確認メール・注文履歴の画面
- 按分計算をした場合はその計算根拠メモ(配信時間の記録など)
- 減価償却資産については固定資産台帳
電子取引(メールや注文システム上の明細)で受け取った書類は、2024年1月以降は電子データのまま保存することが義務になっています(電子帳簿保存法)。プリントアウトして紙で保存するだけでは要件を満たさない点に注意が必要です。
よくある間違い
「セット購入したから分けて考えなくていい」
まとめてセット購入したように見えても、個々の資産として独立して機能するものは、1点ごとに取得価額を判定します。10万円超のPCと5万円のマイクを同時購入した場合、合算して「15万円の資産」として処理するのは誤りです。それぞれ別の判定になります。
「配信に使っているから全額経費にできる」
プライベートでも使う機材を按分せずに全額経費にするのは、業務使用部分を超えた計上になります。特にゲームプレイ用のPCは、配信以外のゲームプレイや私用での使用も多いため、按分を省略すると否認リスクがあります。
「青色申告の特例はいつでも使える」
少額減価償却資産の特例は青色申告者のみが対象で、白色申告者には適用がありません。また、一括償却資産(10万円以上20万円未満を3年均等で経費化する方法)と特例は選択適用の関係にあります。どちらが有利かは状況によって異なります。
「取得価額の消費税の扱いを間違える」
No.2100(注5)にある通り、消費税免税事業者は税込経理が原則です。例えば税込108,900円のキャプチャボードは「10万円以上」として扱い、減価償却または特例の対象になります。免税事業者が「本体価格9万9,000円だから10万円未満」と判断するのは誤りです。
自分で確認できるチェックリスト
購入した機材について、以下の順番で確認することで処理方法を判断できます。
- 取得価額(税込または税抜・自分の経理方式による)を確認した
- 1点あたり10万円未満か、10万円以上かを確認した
- 10万円以上の場合、青色申告者かどうかを確認した
- 青色申告者の場合、令和8年3月31日以前の取得か4月1日以後の取得かを確認した(特例の上限額が異なる)
- 年間の少額減価償却資産の合計額が300万円以内に収まっているか確認した
- プライベート兼用機材について按分割合の根拠を記録した
- 購入レシート・注文明細を保存した(電子取引はデータ保存)
- 減価償却資産の場合、固定資産台帳に登録した
税理士に相談した方がいいケース
次のような状況では、処理方法の判断を誤るリスクがあるため、専門家への確認をおすすめします。
- 配信用PCを20万円以上で購入し、どの方法で経費化するか迷っている
- 特例・一括償却資産・通常の減価償却のどれが有利か計算したい
- 年間の少額減価償却資産の合計額が300万円に近づいている
- 副業として配信を始めたが、雑所得・事業所得のどちらで申告するか迷っている
- 事務所兼自宅で使う機材の按分割合に自信が持てない
- 機材を仕事仲間に貸し出したことがあり、特例が使えるか判断できない
よくある質問
キャプチャボードは消耗品費として処理できますか?
取得価額が10万円未満であれば、消耗品費として購入年に全額経費にできます。多くのキャプチャボードは10万円未満に収まりますが、税込・税抜のどちらで判定するかは自分の経理方式(免税事業者は税込)によります。10万円以上になる場合は、青色申告者であれば少額減価償却資産の特例が使えるかどうかを確認します。
配信用PCを分割払い(ローン)で購入した場合の経費計上のタイミングは?
資産の取得価額は購入時点の総額で判定します。分割払いであっても、資産を業務の用に供した年に取得価額全体を基準に処理します。毎月の支払いをその都度経費にするのではなく、取得時に資産として計上し(または特例を使って全額経費に)、支払いは負債の返済として管理するのが正しい処理です。
白色申告者でも少額減価償却の特例は使えますか?
少額減価償却資産の特例(取得等の時期に応じて30万円未満または40万円未満を全額即時経費にできる特例)は、青色申告者のみが対象です。白色申告者が使える即時経費の枠は「10万円未満」までです。10万円以上の資産は、一括償却資産(10万円以上20万円未満のものを3年均等で経費化)または通常の減価償却で処理することになります。
配信のために購入したゲームソフトも経費になりますか?
ゲーム実況・配信のために購入したゲームソフトは、業務に直接使用するものとして必要経費に計上できると考えられます。ただし、実況・配信に使わないタイトルや私的な楽しみの要素が強いものは、全額を経費とすることへの説明が難しくなります。プレイ・配信の記録とともに購入目的を明確にしておくことが大切です。
電子レシートやメールの注文確認書はどう保存すればいいですか?
電子取引で受け取った証憑(ECサイトのメール、注文確認画面のPDFなど)は、2024年1月以降は電子データのまま保存することが義務です。ファイル名に日付・金額・取引先を含めて整理するか、対応した会計ソフト・クラウドストレージを活用して検索できる状態で保存することが求められます。印刷して紙だけで保存する方法は、電子帳簿保存法の要件を満たしません。
まとめ
ライブ配信・ゲーム実況で使う機材費の経費計上は、取得価額(1点ごと)と申告方式(青色・白色)によって処理方法が決まります。
- 10万円未満:全員、購入年に全額経費
- 10万円以上・青色申告者:令和8年3月31日以前の取得は30万円未満まで、令和8年4月1日以後の取得は40万円未満まで、購入年に全額経費にできる特例あり(年間300万円上限)
- 上限を超える場合・白色申告者:法定耐用年数で減価償却
プライベートとの兼用機材は按分が必要で、按分の根拠記録を残しておくことが実務上の肝です。また、電子取引で受け取ったレシートはデータ保存が義務になっています。処理の判断に迷う場合や、機材購入額が大きくなってきた場合は、早めに専門家に相談することで取り越し苦労を防げます。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
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