常雇の従業員は8人だから納期の特例が使えると思っていたら、実は日雇労働者まで含めてカウントしなければならなかった——建設業を営む個人事業主の方から、こうした相談が少なくありません。
現場によって人数が増減する建設業では、こんな疑問が浮かびやすいものです。
- 日雇いの人は「常時」のカウントに入るの?
- 常雇8人なら申請できると思っていたけど、間違い?
- 繁忙期だけ人が増える場合はどう判定する?
結論からいうと、日雇労働者を常態的に雇い入れている建設業の場合、日雇いの人数も含めて「常時10人未満」かどうかを判定しなければなりません。国税庁の質疑応答事例(所得税基本通達216-1)がこのケースを明確に示しています。
この記事でわかること
- 源泉所得税の納期の特例における「常時10人未満」の判定基準
- 建設業特有の日雇労働者を含む場合の判定方法
- 繁忙期の臨時雇用との違い
- 自分のケースに当てはめるための判断チェックリスト
【事例設定】国税庁の質疑応答事例
国税庁が公表している質疑応答事例(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/01/09.htm)では、次のような事例が示されています。
Aは、建設業を営む個人事業主です。日雇労働者を通常5人から10人雇い入れていますが、常雇の従業員が8人である場合には、申請書を提出すれば納期の特例を適用できますか。
この事例に対する国税庁の回答は、「納期の特例を適用することはできません」というものです。
納期の特例制度とは(原則の確認)
源泉所得税の納期の特例とは、給与等の支払を受ける者が常時10人未満の源泉徴収義務者に限り認められた制度です(所得税法第216条)。
通常、源泉徴収した所得税は翌月10日までに納付しなければなりませんが、この特例の適用を受けると、1月から6月分をまとめて7月10日に、7月から12月分をまとめて翌年1月20日に納付できるようになります。毎月の納付事務の負担を大幅に軽減できる制度です。
論点:「常時10人未満」に日雇労働者は含まれるか
ここが、建設業の事業者が最も迷うポイントです。
所得税基本通達216-1は、「給与等の支払を受ける者が常時10人未満であるかどうかは、給与の支払を受ける者の数が平常の状態において10人未満であるかどうかにより判定する」と定めています。
さらに、同通達の(2)では、労働者を日々雇い入れることを常態とする場合には、たとえ常雇人の人数が10人未満であっても、日々雇い入れる者を含めると平常は10人以上となるときは、常時10人未満ではないものとするとされています。
つまり、建設業のように日雇労働者の雇い入れが「常態」である場合は、常雇だけで人数を数えるのではなく、日雇いを含めた平常の状態での合計人数で判定しなければなりません。
【判断の流れ】自分のケースへの当てはめ方
| 確認ステップ | 確認内容 |
|---|---|
| ① 日雇いの雇い入れは「常態」か | 現場ごとに日雇いを継続的に雇い入れているなら「常態」に該当する |
| ② 平常の人数を合計する | 常雇の人数+日雇いの平常の人数(変動があれば通常時の人数)を合計 |
| ③ 合計が10人以上か | 10人以上なら納期の特例は適用不可。10人未満なら申請可能 |
今回の事例では、常雇8人+日雇い通常5〜10人の合計が13〜18人になります。これは明らかに10人以上ですので、常雇だけで見れば8人でも、納期の特例は適用できないという結論になります。
繁忙期だけ人が増える場合との違い
所得税基本通達216-1(1)には、もう一つの判定基準があります。
労働者を日々雇い入れることを「常態としない」者が、繁忙期には臨時に使用した人数を含めると10人以上となるような場合には、給与の支払を受ける者は常時10人未満とされ、納期の特例を適用できるとされています。
この「常態としない」というのが重要なポイントで、建設業のケースと対照をなします。
| 雇用形態のパターン | 判定 | 納期の特例 |
|---|---|---|
| 日雇いを常態的に雇い入れ、常時合計10人以上 | 常時10人以上 | 適用不可 |
| 日雇いを常態的に雇い入れ、常時合計10人未満 | 常時10人未満 | 申請可能 |
| 繁忙期のみ臨時雇用し、それを含めると10人以上 | 常時10人未満とみなす | 申請可能 |
| 繁忙期関係なく常に常雇のみで10人以上 | 常時10人以上 | 適用不可 |
建設業で現場ごとに日雇いを雇うのは「常態」に当たることがほとんどです。一方、小売業などで年末年始だけアルバイトを増員するような場合は、「常態としない」に当たるため、繁忙期の臨時人数は判定に含めなくてよいということになります。
自分で確認できるチェックリスト
納期の特例の申請を検討している建設業の個人事業主の方は、以下の項目を確認してみてください。
- □ 常雇(正社員・パート・アルバイト含む)の人数を数えた
- □ 日雇労働者を雇い入れているかどうか確認した
- □ 日雇労働者の雇い入れが「常態」かどうか確認した(現場のたびに継続的に雇う=常態)
- □ 常雇+日雇いの平常の合計人数を算出した
- □ 合計が10人未満であることを確認した
- □ 10人未満であれば「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出した
1つでも確認できていない項目があれば、申請前に再確認が必要です。
税理士に相談した方がいいケース
次のような状況では、判定の誤りがペナルティにつながる可能性があるため、専門家への相談をお勧めします。
- 現場によって日雇いの人数が大きく変動し、「常態」かどうか判断に迷う
- すでに納期の特例を適用中だが、雇用人数が最近増えてきた
- 外注と日雇いが混在しており、どこまでが「給与の支払を受ける者」に該当するか不明
- 過去の申告・納付に誤りがあったかもしれないと気づいた
なお、外注費として支払っている相手が税務上「給与」と判定される場合は、源泉徴収義務の有無にも影響します。建設業では一人親方への支払いが外注か給与かという論点が生じやすく、この判定は人数のカウントにも関係してきます。
よくある質問
申請書を提出してしまった後に10人以上だと気づいた場合はどうなりますか?
納期の特例の要件を満たさない状態で適用していた場合、本来の納期(翌月10日)に遡って納付が必要になる可能性があります。気づいた時点で速やかに税務署に相談し、修正が必要かどうかを確認してください。延滞税や不納付加算税のリスクがあるため、早めの対応が重要です。
現場によって日雇いがゼロのときもある場合、「常態」に当たりますか?
日雇いがゼロになる日があっても、継続的・反復的に日雇労働者を雇い入れている実態があれば「常態」と判定される可能性が高いです。「たまに雇う」のか「現場のたびに雇う」のかという実態で判断されます。判断に迷う場合は税務署か税理士に確認するのが確実です。
一人親方への外注費は「給与の支払を受ける者」に含まれますか?
原則として、外注費として支払っている一人親方は「給与の支払を受ける者」には含まれません。ただし、実態が給与と認定された場合は含まれます。外注か給与かの判定は、指揮命令の有無や道具・材料の負担者など複数の要素で総合的に判断されます。
納期の特例を取りやめる場合の手続きはありますか?
要件を満たさなくなった場合は、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署に提出する必要があります。届出後は翌月から通常の納期(翌月10日)に戻ります。
まとめ
建設業で日雇労働者を常態的に雇い入れている場合、源泉所得税の納期の特例における「常時10人未満」の判定は、常雇の人数だけでなく日雇いを含めた合計で行わなければなりません。
今回の国税庁の事例でいうと、常雇8人であっても日雇いを通常5〜10人雇い入れていれば合計は10人以上となり、納期の特例の申請はできないという結論です。
一方、繁忙期だけ臨時に人を増やす業種では、その臨時分は判定に含めなくてよいため、建設業の「常態的な日雇い」とは明確に取り扱いが異なります。
申請前に自分の雇用実態を一度整理してみることが、後々のトラブルを防ぐ近道です。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
1人親方の税務は、外注か給与かの判定、工具や材料費、源泉徴収、帳簿管理など実務上の確認点が多くあります。現場ごとの契約形態に不安がある場合は、税理士に相談しておくと安心です。
毛利順活税理士事務所では、初回のご相談を無料で承っております。お気軽にお問い合わせください。