同族株主がいない会社の株式を相続した場合、誰が株式を取得するかによって評価方法が変わります。配偶者が取得するのか、子が取得するのかで、「配当還元方式」と「原則的評価方式」のどちらが適用されるかが異なるケースがあります。
この記事では、国税庁の質疑応答事例「同族株主がいない会社の株主の議決権割合の判定」をもとに、具体的な数値を使って判定の流れを解説します。
※ この記事で使用する設例は、国税庁の質疑応答事例の内容に基づくものです。実在する個人・法人とは関係ありません。
この記事でわかること
- 配偶者Bが株式を相続した場合に配当還元方式が適用される根拠
- 判定の起点が「被相続人の保有時」ではなく「取得者を基点とした取得後」である理由
- 子が株式を相続した場合に判定が変わる仕組みと追加要件
- 自分のケースを確認するためのチェックポイント
【想定事例】甲社株式をBが相続したケース
国税庁の質疑応答事例に沿った設定は次のとおりです。
- 甲社は同族株主がいない会社
- Aとその親族の議決権割合は以下のとおり
| 株主 | Aとの関係 | 議決権割合 |
|---|---|---|
| C | Aの5親等の血族 | 15% |
| A | 本人(被相続人) | 2.5% |
| B | Aの配偶者 | 1% |
| 子(2人) | AとBの子 | 各0.5%(合計1%) |
- 他の株主には、これらの者の同族関係者はいません
- Aが死亡し、Aが保有していた議決権割合2.5%分の株式をBが相続した
この設例で、Bが相続取得した株式をどのように評価するかが今回の論点です。
論点:同族株主がいない会社での評価方法の判定
財産評価基本通達188は、「同族株主以外の株主等が取得した株式」に配当還元方式を適用するための要件を定めています。そのうち(3)号は、議決権割合が15%未満のグループに属する株主についての規定です。
ポイントは、評価の基準となる議決権割合は「取得した者(B)を起点」として取得後の状態で判定するという点です。通達の文言が「その株主の取得した株式」となっており、取得者を基点に親族の範囲と議決権割合を再計算することが必要になります。
【判断の流れ】BがAの株式を相続した場合
手順① Bを起点とした同族関係者の範囲を確認する
Bの同族関係者とは、配偶者・6親等内の血族・3親等内の姻族を指します。
ここで重要なのがCの扱いです。CはAの5親等の血族です。Bを起点として考えると、CはBの5親等の姻族にあたります。姻族は3親等以内が同族関係者の範囲ですので、5親等の姻族であるCはBの同族関係者には該当しません。
国税庁の質疑応答事例も「CはBの親族(配偶者、6親等内の血族及び3親等内の姻族)に当たらず」と明示しています。
手順② Bのグループの議決権割合を計算する
Bを起点とした同族関係者のみで構成されるグループの議決権割合を合計します。
| 株主 | Bとの関係 | 議決権割合 |
|---|---|---|
| B | 本人 | 1%(もともとの保有分)+2.5%(Aから相続)=3.5% |
| 子(2人) | Bの1親等の血族 | 0.5%×2=1% |
| C | Bの同族関係者に当たらない | 対象外 |
| Bのグループ合計 | — | 4.5% |
Bのグループの議決権割合の合計は4.5%となり、15%未満に該当します。
手順③ 評価方法を確定する
財産評価基本通達188(3)に定める株主(議決権割合が15%未満のグループに属する株主)に該当するため、Bが相続取得した甲社株式は配当還元方式により評価することになります。
これが国税庁の質疑応答事例における結論です。
【条件変動シミュレーション】子のいずれかがAの株式を相続した場合
もしAとBの子のいずれか(以下「取得した子」)がAの株式を相続した場合、判定の結論が変わります。
子を起点とした同族関係者の範囲
CはAの5親等の血族であり、子からみると6親等内の血族に当たります(子→A→…→C のルートで6親等以内)。したがって、CはこのケースではAとBの子の同族関係者に含まれます。
議決権割合の計算
| 株主 | 「取得した子」との関係 | 議決権割合 |
|---|---|---|
| C | 6親等内の血族 | 15% |
| B | 1親等の血族(親) | 1% |
| もう一人の子 | 6親等内の血族(兄弟姉妹) | 0.5% |
| 取得した子 | 本人 | 0.5%+2.5%(相続分)=3% |
| グループ合計 | — | 19.5% |
グループの合計が19.5%(15%以上)となるため、そのままでは原則的評価方式の対象になりえます。ただし、ここで追加の判定が必要です。
追加判定:配当還元方式が適用される条件
| 確認事項 | この事例での状況 |
|---|---|
| 中心的な株主の存在 | Cが単独15%を保有しており、中心的な株主に該当する |
| 取得した子の相続後の議決権割合 | 3%(5%未満) |
| 取得した子の役員該当性 | 役員である、または申告期限までに役員となる予定か |
国税庁の質疑応答事例では、「Cが中心的な株主であり、かつ子の相続後の議決権割合が5%未満であることから、その子が役員または法定申告期限までに役員となる者でない限り、配当還元方式が適用される」と示されています。
つまり、子が役員であれば原則的評価方式、役員でなければ配当還元方式、という判定になります。
事例から得られる教訓・実務ポイント
今回の事例を通じて、以下の点が実務上の重要ポイントといえます。
- 判定の起点は取得者:「被相続人が保有していたとき」ではなく「取得した者を基点にした取得後の状態」で親族の範囲と議決権割合を再計算する
- 姻族は3親等まで:血族(6親等まで)と比べて姻族の範囲は狭い。5親等の血族であっても、配偶者からみると5親等の姻族となり、同族関係者の範囲外になるケースがある
- 取得者が異なれば結論も変わる:同じ会社・同じ株式でも、誰が取得するかによって評価方法が異なる。遺産分割の方針を決める前に確認することが重要
- 子が取得する場合は役員要件に注意:15%以上のグループに属しても、中心的な株主の存在・5%未満要件・役員非該当の3要件がそろえば配当還元方式となる
自分のケースを確認するためのチェックポイント
- 対象会社に同族株主(議決権割合30%以上のグループに属する株主)がいないか確認する
- 同族株主がいない会社であれば、株式を取得した者を起点に親族の範囲(6親等内血族・3親等内姻族)を確認する
- 自分のグループ(本人+同族関係者)の議決権割合の合計が15%未満かどうかを計算する
- 15%以上のグループに属する場合は、取得後の自分の議決権割合が5%未満か、中心的な株主が別にいるか、自分が役員かどうかを確認する
- 姻族の親等数の数え方や中心的な株主の判定に迷う場合は、専門家に確認する
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
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