法人を設立したばかりで、自分への報酬をどう決めればいいか迷っている——そういった場面でよく耳にするのが「役員報酬は自由に変えてはいけない」という話です。では、なぜ自由に変えられないのか、どう設計すれば損金として認められるのか、具体的なルールはあまり知られていません。
よくある疑問を挙げると、こんな声が聞かれます。
- 期中に業績が落ちたので役員報酬を下げたい。損金算入できる?
- 決算賞与として役員にボーナスを支払いたいが、どうすれば経費になる?
- 定時改定の時期を1か月逃した。もう変更できない?
この記事では、国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」をもとに、損金算入が認められる役員報酬の類型と、判断が分かれやすいケース別の考え方を整理します。
この記事でわかること
- 役員報酬が損金算入されるための3つの類型
- 定期同額給与として認められる改定のタイミングと条件
- 事前確定届出給与の届出期限と、届出なしで損金算入できる例外
- ケースごとの判断ポイントと、よくある間違い
まず結論:役員報酬が損金になる3類型
法人が役員に支給する給与は、原則として損金に算入されません。ただし、次の3つのいずれかに該当する場合に限り、損金算入が認められます(国税庁 No.5211)。
| 類型 | 概要 |
|---|---|
| 定期同額給与 | 毎月同額を支給する給与。一定の改定は認められる |
| 事前確定届出給与 | 支給前に届出をした金額・時期どおりに支給するボーナス等 |
| 業績連動給与 | 利益指標に連動して支給する給与(上場企業等に限定) |
中小法人が実務で使うのは、ほぼ「定期同額給与」か「事前確定届出給与」のどちらかです。業績連動給与は適用できる法人が限られるため、この記事では前2者を中心に説明します。
なお、上記のいずれかに該当しても、不相当に高額な部分は損金に算入されません。
定期同額給与:改定が認められる3つの場面
毎月同額を支給していれば原則として定期同額給与に該当しますが、金額の改定が認められるのは次の3つの場合に限られます。
① 定時改定(期首から3か月以内)
事業年度開始の日から3か月を経過する日(3月経過日等)までに行う改定は、損金算入が認められます。多くの法人では、毎年この時期に株主総会等で報酬額を見直すことで、同額要件を維持しながら金額を変更できます。
3月を超えてから改定した場合は、改定後の金額が改定前と異なれば同額要件を満たさなくなり、損金算入が認められない部分が生じます。時期の失念は取り返しがつかないケースが多いため、改定スケジュールは決算の流れと一緒に管理しておくことが重要です。
② 臨時改定事由(役職・職務の重大な変更)
役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更などのやむを得ない事情(臨時改定事由)が生じた場合には、定時改定の時期以外でも改定が認められます。
ただし「業績が悪化した」「利益が予想を下回った」というだけでは臨時改定事由にはなりません。役職の変更や重大な職務変更といった、客観的に説明できる事情が必要です。
③ 業績悪化改定事由(減額のみ)
法人の経営状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由がある場合は、定時改定の時期以外でも減額改定が認められます。ただし、減額のみに限られます。増額はできません。
また、「一時的な資金繰りの都合」や「単に業績目標値に達しなかったこと」はこれに含まれないと明示されています。財務状況の著しい悪化を客観的に説明できる状況が前提となります。
事前確定届出給与:届出の期限と手続き
役員に毎月の報酬とは別にボーナスを支給したい場合は、事前確定届出給与を利用します。支給前に、支給時期・支給額を確定した届出書を税務署に提出する必要があります。
届出期限(原則)
届出書の提出期限は、次のいずれか早い日です。
| 条件 | 届出期限 |
|---|---|
| 株主総会等の決議による場合 | 決議日(職務開始日後の場合はその開始日)から1か月を経過する日 |
| 上記以外の場合 | 会計期間開始日から4か月を経過する日 |
新設法人がその設立時の職務について定めをした場合は、設立日から2か月を経過する日が届出期限となります。
届出なしで損金算入できる例外
届出が不要となるケースが2つ定められています。
- 定期給与を支給しない役員に対して、同族会社に該当しない法人が支給する金銭による給与
- 将来の役務提供に係る一定の特定譲渡制限付株式または特定新株予約権による給与(所定の決議要件あり)
中小の同族会社が役員へ金銭でボーナスを支給する場合は、この例外には該当しないため、届出が必要です。
届出額と実際の支給額がずれたとき
事前確定届出給与は、届出した金額・時期どおりに支給することが損金算入の前提です。届出額より多く支払った場合も少なく支払った場合も、損金算入が認められなくなるリスクがあります。実務では「届出は出したが、実際の支給が1円ずれた」というケースでも問題になることがあるため、支給前に届出書の内容を必ず確認してください。
ケース別の判断ポイント
判断が分かれやすい場面を整理します。
ケースA:期中に業績が悪化したので減額したい
業績悪化改定事由として認められるには、経営状況が「著しく悪化」していることが必要です。単なる売上減少や目標未達では認められません。資金繰りの悪化が外部(取引先・金融機関)に対しても明らかであるなど、客観的に説明できる状況が前提となります。
減額を行う場合は、議事録等で事由を明確に記録しておくことが重要です。
ケースB:決算賞与を役員にも支払いたい
役員への賞与は、事前確定届出給与の手続きを踏まなければ損金算入されません。決算月に「今期の利益が出たので役員にも賞与を出そう」と思い立っても、届出期限を過ぎていれば認められません。役員賞与を予定しているなら、事業年度の早い段階で金額・時期を確定して届出を行う必要があります。
ケースC:役員が使用人を兼ねている(使用人兼務役員)
使用人兼務役員に対して支給する「使用人としての職務に対する給与」は、役員給与の損金算入規制の対象から除かれます。ただし、使用人としての職務に対する部分と役員としての職務に対する部分を明確に区分できることが前提です。区分が不明確な場合は、全額が役員給与として扱われる可能性があります。
よくある間違い
「赤字になりそうだから報酬を下げる」では認められないことがある
業績悪化改定事由と混同しやすいのが、「利益目標に届かなかった」「今期は赤字になりそう」という理由での減額です。出典には「法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません」と明記されています。著しい経営悪化があるか否かは慎重に判断する必要があります。
「届出を出せば自由に変更できる」という誤解
事前確定届出給与の届出は「一度出せば後から変更できる」と思われがちですが、変更には別途の手続きが必要です。また、届出書を変更する際にも期限が定められており、臨時改定事由がない場合の変更届出は制限があります。
よくある質問
定時改定の「3か月以内」はどこからカウントしますか?
事業年度開始の日から起算します。3月決算法人なら4月1日が起算日となり、6月末(3か月経過日)までに行う改定が定時改定として認められます。ただし、確定申告書の提出期限の特例(延長)を受けている場合は、その指定に係る月数に2を加えた月数が基準になります。
役員報酬をゼロにすることはできますか?
損金算入の問題とは別に、ゼロ設定自体は可能です。ただし、役員報酬をゼロにした期間の後に再度支給を始めると、その再支給が「定期同額」として扱われるかどうかの判断が必要になります。実務上は、継続的な同額支給の流れを維持するか、一度ゼロにする場合は事情を議事録等に明確に残しておくことが重要です。
源泉徴収後の手取りが毎月同じなら定期同額として認められますか?
国税庁 No.5211 によれば、支給額そのものが同額である場合のほか、「支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額」である場合も定期同額給与に該当します。所得税・住民税・社会保険料を差し引いた手取りが毎月同額であれば、要件を満たすことができます。
まとめ
役員報酬を損金算入するためには、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかの要件を満たす必要があります。中小法人で実務上重要なのは次の点です。
- 毎月同額の定期同額給与が基本。改定は期首から3か月以内、または臨時改定事由・業績悪化改定事由がある場合に限られる
- 役員へのボーナスは事前確定届出給与の届出が原則必須。届出額と支給額のずれは損金算入を否認されるリスクがある
- 「業績が悪いから減額」では要件を満たさないことがあり、事由の客観的な説明と記録が必要
設計を誤ると損金算入が認められず、法人税の負担が増えることになります。金額・時期・手続きはいずれも慎重に確認してください。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
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