アパートや賃貸マンションを購入したとき、「建物の消費税分を還付できないか」と考える方は少なくありません。しかし2020年10月以降、居住用賃貸建物については仕入税額控除が大きく制限されています。この制限を知らずに申告してしまうと、後から修正申告や追徴課税が生じるリスクがあります。
この記事でわかること
- 居住用賃貸建物に関する仕入税額控除の原則と制限の内容
- 対象になる建物・ならない建物の判定基準
- 例外的に控除が認められるパターン
- 住居と店舗が混在する物件の考え方
- 税理士への相談が必要になる境目
まず結論
居住用賃貸建物の取得にかかる消費税は、原則として仕入税額控除ができません。ただし、取得後に課税賃貸(事業用・店舗など)として使用した実績があれば、一定の範囲で控除を取り戻す仕組みがあります。
対象になる人
- アパート・賃貸マンション・賃貸戸建てを取得した個人事業者
- 1棟の中に居住用と店舗・事務所が混在する建物を取得した方
- 消費税の還付申告を検討している不動産賃貸業者
消費税の納税義務がない免税事業者の方は、そもそも仕入税額控除を行う場面がないため、この制限の影響を直接受けることはありません(タックスアンサー No.6501)。
居住用賃貸建物の仕入税額控除制限とは
消費税法(第30条第10項)の規定により、居住用賃貸建物に該当する建物の取得等にかかる消費税額は、仕入税額控除の計算から除外されます(令和2年10月1日以後の取得分から適用)。
「居住用賃貸建物」とは、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外のもの、つまり「住居として使われる可能性がある建物全般」と広く解されます。
| 区分 | 具体例 | 控除の可否 |
|---|---|---|
| 居住用のみ | 賃貸アパート、分譲賃貸マンション | 原則:不可 |
| 事業用のみ | 店舗ビル、事務所ビル、倉庫 | 通常どおり可 |
| 混在(居住+事業用) | 1階店舗・2〜3階住居のビル | 按分計算が必要 |
例外的に控除できるパターン
原則は控除不可ですが、取得後の使用実態に応じて調整できる仕組みが設けられています。
パターン①:課税賃貸割合による調整(仕入れに係る消費税額の調整)
居住用賃貸建物を取得した事業者が、取得した課税期間の翌課税期間から3年間(調整期間)に、その建物を課税賃貸(店舗・事務所・駐車場など消費税が課税される賃貸)に使用した場合、その割合に応じて仕入税額控除を追加で認める調整があります。
調整額の計算式は次のとおりです。
調整税額 = 当初の控除不可消費税額 × 課税賃貸割合
課税賃貸割合とは、調整期間中に得た賃貸収入のうち課税賃貸収入(事業用・店舗など)の占める割合です。居住用家賃は非課税売上のため、分子に算入されません。
パターン②:売却または転用した場合の調整
調整期間中に建物を譲渡(売却)した場合、または課税賃貸の用途に転用した場合も、同様に課税賃貸割合に基づく調整計算が必要になります。売却時点の調整は有利な方向に働くことが多いため、売却を検討するタイミングで忘れずに確認してください。
住居と店舗が混在する建物の考え方
1棟の建物に居住用と事業用(店舗・事務所)が混在する場合、居住用部分だけを「居住用賃貸建物」として取り扱い、事業用部分は通常の仕入税額控除の対象になります。
実務上は、床面積などの合理的な基準で按分するケースが一般的です。ただし、按分方法の根拠をどう設定するかは判断が難しく、税務調査でも確認されやすいポイントです。
よくある間違い
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 「消費税課税事業者なら全額控除できる」 | 課税事業者でも居住用賃貸建物は原則控除不可 |
| 「将来、店舗に転用すれば最初から控除できる」 | 取得時は控除不可。転用後の調整計算で対応 |
| 「駐車場収入は居住用家賃と同じ扱い」 | 駐車場は原則課税売上。課税賃貸割合の分子に算入 |
| 「免税事業者から課税事業者になれば還付できる」 | 制限は課税事業者全体に適用。免税→課税切替だけでは解消しない |
自分で確認できるチェックリスト
- 取得した建物は住居として貸し付ける予定があるか(居住用か事業用かの判定)
- 1棟の中に居住用と事業用が混在していないか
- 取得後3年間の賃貸収入の内訳(課税賃貸・非課税賃貸)を記録しているか
- 調整期間中に売却・転用の予定があるか
- 取得時の消費税額を帳簿・請求書で確認できるか
税理士に相談した方がいいケース
次のいずれかに当てはまる場合は、自己判断よりも専門家への確認をおすすめします。
- 取得金額が1,000万円以上で、高額特定資産の3年縛りも重なる可能性がある
- 居住用・事業用の按分割合の根拠をどう設定すべきか判断に迷っている
- 調整期間(3年)の途中で売却・リノベーション・転用を検討している
- すでに還付申告を行ったが、居住用制限の適用漏れが心配
高額特定資産(取得価額1,000万円以上)を取得した場合は、消費税の納税義務免除の特例にも制限がかかるため(タックスアンサー No.6502)、判定が複合的になります。
まとめ
居住用賃貸建物の取得にかかる消費税は、令和2年10月以降、原則として仕入税額控除が認められません。ただし、取得後の課税賃貸の実績に応じた調整計算や、混在物件の按分処理など、例外・調整の仕組みも複数あります。「どの部分が控除できて、どの部分が控除できないか」を取得前から整理しておくことが、後からの税務リスクを防ぐうえで大切です。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
個人事業の税務は、青色申告・経費区分・専従者給与・消費税の判定など、業種を問わず共通の論点が多くあります。自分のケースにどう当てはまるかを整理したい方は、税理士への相談がおすすめです。
毛利順活税理士事務所では、初回のご相談を無料で承っております。お気軽にお問い合わせください。