「少額だから源泉しなくていい」は誤りです
ECショップの売上が増えてきてスタッフを雇い始めた頃、こんな思い込みが実務の落とし穴になることがあります。
- 月給が少ないから源泉徴収はしなくていい
- 業務委託にすれば社会保険の手続きは不要
- アルバイトはとりあえず請求書をもらえばいい
これらはいずれも、誤解または状況によって大きくリスクが変わる判断です。以下で、よくある誤解を一つずつ整理します。
よくある誤解と正しい処理
誤解① 「給与が少額なら源泉徴収は不要」
正しい理解:給与を支払う事業者は、支払額の多少にかかわらず原則として源泉徴収の義務があります(所得税法第183条)。
ただし、常時雇用する従業員が10人未満の場合は「源泉所得税の納期の特例」を使え、1〜6月分をまとめて7月10日、7〜12月分を翌年1月20日に納付できます。少額だから納付不要、ではなく「まとめて納付できる」という特例です。
実務の注意点:雇用開始月から源泉徴収簿(または給与台帳)を作り、毎月の徴収額を記録してください。後から遡って計算し直すのは手間がかかります。
誤解② 「業務委託なら社会保険は一切関係ない」
正しい理解:契約の名称が「業務委託」であっても、実態が雇用(指揮命令関係がある・時間拘束がある・専属的)であれば、社会保険・労働保険の加入義務が生じる場合があります。
また、純粋に業務委託として支払う報酬でも、特定の報酬(デザイン料・原稿料・弁護士報酬など)は源泉徴収の対象になります。「業務委託にすれば源泉も社保も全部なし」は誤りです。
| 契約形態 | 源泉徴収 | 社会保険 |
|---|---|---|
| 給与(雇用) | 原則必要 | 要件を満たせば加入義務あり |
| 業務委託(特定報酬) | 報酬種別により必要 | 実態が雇用なら加入義務が生じる場合あり |
| 業務委託(物品販売補助など) | 原則不要 | 実態判定による |
誤解③ 「請求書をもらえば経費にできる=それだけでOK」
正しい理解:業者や個人への外注費を経費にすること自体は正しい処理です(国税庁タックスアンサー No.1350 事業所得の課税のしくみ)。ただし、請求書の受領だけで源泉徴収義務が消えるわけではありません。
源泉徴収が必要な報酬を支払う場合、請求書の全額を支払ってしまうと源泉分を事業主が立替納付する義務が生じます。「相手に全額振り込んだから自分は関係ない」は通用しません。
雇用時に最初にやること・チェックリスト
| # | 確認・手続き | タイミング |
|---|---|---|
| 1 | 雇用か業務委託かを実態で判断する | 採用前 |
| 2 | 「給与支払事務所等の開設届」を税務署に提出 | 初回給与支払い前 |
| 3 | 源泉所得税の納期の特例を使う場合は承認申請 | 開設届と同時が多い |
| 4 | 労働保険(雇用保険・労災)の加入手続き | 雇用開始後10日以内 |
| 5 | 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件確認 | 雇用開始時 |
| 6 | 給与台帳・源泉徴収簿の整備 | 初回給与支払いまで |
社会保険は「週30時間以上の労働」「週20時間以上かつ月収88,000円以上で従業員51人以上の事業所」など、人数や労働時間で加入義務の基準が変わります。小規模なECショップでもパートを複数人雇えば対象になるケースがあるため、早めに年金事務所や社会保険労務士に確認することをおすすめします。
税理士に相談した方がいいケース
以下に当てはまる場合は、自己判断で進めると手続きの遅れや追徴が生じるリスクがあります。
- 業務委託と雇用の区別が曖昧なまま外注費を計上している
- 源泉徴収をせずに給与を支払い続けている
- 複数のスタッフを抱え、それぞれ契約形態が混在している
- 年末調整を一度もやったことがない
まとめ
スタッフへの支払いは「給与か外注か」の判断が出発点で、その判断次第で源泉徴収・社会保険・経費処理のすべてが変わります。「少額だから」「業務委託だから」という思い込みで処理を省略すると、後から修正申告や追徴が必要になることがあります。
契約開始前に一度立ち止まって、実態に合った処理を確認しておくことが、売上が伸びた時期に余計なリスクを抱えない一番の近道です。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
雇用形態の判断や源泉・社保の実務手続きは、取引の実態やスタッフの人数によって対応が変わります。「自分のケースではどうなるか」を確認したい場合は、税理士への相談がおすすめです。
毛利順活税理士事務所では、初回のご相談を無料で承っております。お気軽にお問い合わせください。