解説動画を作るために買った書籍、オンライン講座の受講料、現地取材のための交通費——これらを経費として計上したいが、本当に大丈夫なのか確信が持てない、という声はよく聞きます。
特に解説・教育系のチャンネルを運営していると、動画制作のための勉強と個人的な知識欲が重なりやすく、「これは経費にしていいのか、プライベートな費用なのか」という境目が見えにくいと感じる方が多いようです。
この記事では、解説系YouTuberの書籍・教材・取材費について、経費として認められる条件と、判断が難しい場面での考え方を整理します。
この記事でわかること
- 書籍・教材費が経費になるための根拠と条件
- 取材費として認められる費用の範囲
- 「業務用か私用か」を判断する具体的な基準
- 経費にするために残しておくべき記録
- 税理士に相談すべき場面
まず結論
解説系YouTuberが動画制作のために購入した書籍・教材、または取材目的での出費は、動画テーマとの関連性が説明でき、その記録を帳簿・証憑として残していれば、必要経費として計上できます。
国税庁タックスアンサー No.2210「やさしい必要経費の知識」によると、事業所得・雑所得の必要経費に算入できるのは「総収入金額を得るために直接要した費用」および「その年に生じた業務上の費用」とされています。動画制作が収入に直結している以上、制作に必要な調査・学習コストはこの要件を満たしえます。
ただし、「なんとなく役立ちそう」では経費になりません。どの動画のために、何を目的として使ったかが説明できることが大前提です。
この記事の対象になる人
- 歴史・科学・語学・時事・ビジネス・投資など解説系コンテンツを制作しているYouTuber
- 副業・本業を問わず、動画収入(広告収入・案件収入など)を得ている方
- 書籍代・セミナー参加費・現地取材費を経費にしようか迷っている方
- 個人事業主として確定申告をしている、またはこれからする予定の方
法人で活動している場合も基本的な考え方は共通ですが、この記事では個人事業主・雑所得として申告する方を主な対象にしています。
経費になる費用の基本的な考え方
国税庁タックスアンサー No.2210 では、必要経費の要件として「その総収入金額を得るために直接要した費用」と「業務上の費用」という2軸が示されています。
解説系YouTuberの活動に当てはめると、次のように整理できます。
| 費用の種類 | 経費として認められる条件 |
|---|---|
| 書籍・参考書 | 動画テーマの調査・裏付けを目的として購入している |
| オンライン講座・教材 | 解説動画の内容に直接関わる知識を習得するため |
| 取材のための交通費 | 現地取材・ロケ・インタビューを伴う動画制作のための移動 |
| 取材先での入館料・体験費 | 動画に登場する施設・体験の費用 |
| 専門家へのインタビュー費用 | 動画内容の正確性担保や情報収集のための謝礼等 |
逆に、同じ出費でも「業務との関連が薄い」と判断されやすいケースがあります。たとえば、動画で扱う予定のないジャンルの書籍を大量購入したり、純粋な趣味の学習にかかる費用を計上したりするのは、経費として認められないリスクが高くなります。
「業務用」か「私用」かが曖昧なときの考え方
解説系の場合、最も頭を悩ませるのが「自分の知識を深めるための学習と、動画制作のための調査の区別がつかない」という状況です。
国税庁タックスアンサー No.2210 では、家事上と業務上の両方にかかわる費用(家事関連費)について、「業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその金額に限られる」と定められています。
つまり、「役に立った気がする」ではなく、「どの業務のために、どう使ったか」を説明できる状態にしておくことが求められます。
判断に使える3つの問い
支出の前後に、次の3点を自問してみてください。
- その費用は特定の動画テーマと結びついているか → 「〇〇の解説動画を作るために△△を読んだ」と言える状態か
- その内容が動画に反映されているか(または反映される予定か) → 購入したものの結果的に動画に使わなかった場合は経費としての根拠が弱まる
- 同じ費用を、動画を作っていない人も同じ理由で使うか → 「誰でも買う本」ではなく「このチャンネルを運営しているから必要な本」かどうか
3問すべてに「はい」と答えられれば、経費計上の根拠は強くなります。2問以下なら、家事関連費として全額計上するのではなく、業務に使った割合を見積もって按分するか、計上を見送る判断も必要です。
よくある費用ごとの判断例
書籍・専門誌
解説動画の脚本や台本を書くために購入した書籍は、業務関連性が高い支出です。1冊まるごと動画の参考文献として使うケースはもちろん、複数の章を参照した場合でも、どの動画のためにどう使ったかを記録しておけば経費として計上できます。
一方、「いつか使えるかもしれない」という理由だけで購入する場合は、業務遂行上の直接的な必要性が説明しにくくなります。書籍代が多額にのぼる場合は特に注意が必要です。
オンライン講座・セミナー参加費
解説チャンネルのジャンルと合致した内容の講座・セミナーは経費になりえます。受講目的と動画テーマの対応を、申込時や受講後にメモとして残しておくと、後から説明がしやすくなります。
なお、資格取得が目的の場合は注意が必要です。一般的に、業務に直接必要な技術・知識の習得費は経費になりますが、「資格を取ること自体」が目的で動画制作との関連が薄い場合は認められないことがあります。
取材のための交通費・宿泊費
現地ロケや取材を伴う動画制作では、交通費・宿泊費が発生します。取材が動画制作の一部として位置づけられているなら、これらも経費です。
ただし、観光が主目的の旅行に「撮影もした」という場合は、全額を業務費用として計上するのは難しく、按分が必要になります。旅程の記録、撮影した素材の動画への使用状況、事前に立てた取材計画などが、業務目的の裏付けとして役立ちます。
入館料・体験費
博物館、水族館、テーマパーク、体験施設などへの入館・入場料も、動画の取材として現地の様子を収録するために支払ったなら経費として扱えます。チケットや領収書を保存し、その施設・体験が登場する動画と紐づけて記録しておくと安心です。
記録・帳簿に残すべき内容
経費として計上するうえで、証憑と記録の管理は不可欠です。国税庁タックスアンサー No.2080「白色申告者の記帳・帳簿等の保存」によると、不動産所得・事業所得のある方は記帳と帳簿等の保存が義務付けられており、領収書等は5年間の保存が必要です。
解説系YouTuberの場合、次の情報を記録に残すことを習慣にしてください。
| 残すべき情報 | 具体例 |
|---|---|
| 購入日・支払日 | 2026年8月10日 |
| 支払先・品名 | 〇〇書店、書籍「△△の仕組み」 |
| 金額 | 1,980円(税込) |
| 業務との関連 | 「〇〇解説シリーズ第3回」の参考文献として使用 |
| 証憑 | レシート・領収書・電子データ |
電子取引(電子書籍・オンライン講座の購入明細等)については、2024年1月から電子帳簿保存法の電子保存義務が適用されています。ダウンロードした明細PDFは紙に印刷するのではなく、データのまま保存することが必要です。ファイル名に日付・金額・取引先を入れておくと検索要件を満たしやすくなります。
費用計上のタイミング
国税庁タックスアンサー No.2210 によると、必要経費として計上できる金額は「その年において債務が確定した金額」です。具体的には、①その年の12月31日までに債務が成立し、②具体的な給付をすべき原因となる事実が発生し、③金額が合理的に算定できる——この3要件をすべて満たす必要があります。
書籍の購入や講座の受講料については、通常は支払った時点で債務が確定するため、支払った年の経費として計上します。年末に駆け込みで大量購入するのは問題ないとも言えますが、実際に業務に使った事実が伴っていることが前提です。
よくある間違いとその原因
間違い①:「役に立ちそう」で幅広く計上してしまう
解説系の活動では「どんな本でも何かに使えるかもしれない」と感じやすく、業務関連性が薄い書籍まで計上してしまうケースがあります。税務調査では「この本はどの動画に使いましたか」と問われることがあり、答えられなければ経費として認められないリスクがあります。購入時点で用途を決め、記録に残す習慣が重要です。
間違い②:取材旅行の全費用を計上する
観光・プライベートが混在する旅行の全費用を業務費として計上するのは、家事関連費の按分ルールに照らして問題が生じやすい典型例です。動画撮影に充てた日数・時間の割合など、合理的な基準で按分する必要があります。
間違い③:電子購入の明細を保存していない
電子書籍・オンライン講座のクレジットカード明細だけでは、何を購入したか分からない場合があります。購入確認メールや領収書PDFを保存していないと、後から証明が難しくなります。購入直後にメールをフォルダ分けするか、領収書PDFをダウンロードして保管する仕組みを作ってください。
自分で確認できるチェックリスト
計上前に以下を確認してください。
- その費用は特定の動画テーマ・制作目的と結びついているか
- 領収書・購入明細(紙または電子データ)を保存しているか
- 電子取引で受け取ったデータはデータのまま保存しているか
- 帳簿に「業務との関連」を一言でも記録しているか
- プライベートと混在している場合、按分の根拠を説明できるか
- 1点あたり30万円未満(令和8年3月31日以前取得分)または40万円未満(令和8年4月1日以後取得分)の備品は少額減価償却資産の特例(青色申告者で一定の要件を満たす場合)の対象かを確認したか
税理士に相談した方がいいケース
次のような状況では、自己判断でなく専門家に確認することをおすすめします。
- 書籍・教材費が年間で数十万円を超え、税務調査での説明が不安な場合
- 海外取材・長期ロケを伴い、交通費・宿泊費が高額になっている場合
- 案件収入・投げ銭・物販など複数の収入源があり、費用の紐づけが複雑な場合
- 雑所得から事業所得への変更を検討しており、経費の扱いを整理したい場合
- 法人化を考えており、個人段階での経費処理との違いを確認したい場合
よくある質問
動画で取り上げなかった本の購入費は経費にできますか?
制作時点では使う予定があり、実際に参照したものの最終的に動画に登場しなかった場合は、一概に経費にならないとは言えません。ただし「買ったが全く使わなかった」という状況では、業務遂行上の必要性の説明が難しくなります。購入時の目的と実際の使用状況を記録に残しておくことが重要です。
年間の書籍代が多いと税務調査でチェックされやすいですか?
金額が大きいほど調査担当者の目に留まりやすいのは事実です。ただし、解説系YouTuberとして多数の動画を制作しており、書籍代がその収入に見合った規模であれば、合理的に説明できる場合がほとんどです。各書籍がどの動画の制作に使われたかを記録で示せる状態にしておくことが何より大切です。
Kindle(電子書籍)の購入費は経費にできますか?
経費にできます。電子書籍の購入は電子取引に該当するため、購入履歴のデータや領収書PDFを電子データのまま保存する必要があります。Amazonのアカウントから購入明細をダウンロードし、日付・金額・書名が確認できる状態で保存しておいてください。
専門家にインタビューした際の謝礼は経費になりますか?
動画制作のための取材目的であれば、業務上の費用として経費になります。謝礼を支払った場合は、振込明細や領収書を取っておくとともに、誰に・何のための取材で・いくら支払ったかを帳簿に記載してください。なお、謝礼金額によっては源泉徴収が必要になる場合がありますので、支払金額が大きい場合は確認が必要です。
まとめ
解説系YouTuberの書籍・教材・取材費は、動画テーマとの関連性を説明でき、その記録が残っていれば必要経費として計上できます。
判断の核心は「業務のために必要だったか、それとも私的な学習か」という一点です。国税庁の基準に照らすと、家事関連費は「業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる金額」のみ経費として認められます。購入目的を後から説明できる記録を残すことが、経費計上の根拠を守る最も現実的な手段です。
電子書籍・オンライン講座など電子取引で購入したものは、データのまま保存する義務があります。この点は実務上の見落としが多いので、整備が済んでいない場合は早めに対応してください。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
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