相続財産の中に預貯金があるとき、その評価額は単純に「残高+利息」では計算できません。既経過利子(解約した場合に受け取れる利息相当額)から、源泉徴収される税額を差し引く必要があるからです。
ここで疑問になるのが、「源泉徴収されるべき所得税の額」に復興特別所得税を含めるかどうかです。平成25年以降に相続・遺贈・贈与で取得した預貯金を評価する際、この取扱いを誤ると評価額が変わってしまいます。
国税庁の質疑応答事例に沿った答えを先にお伝えすると、復興特別所得税は含めて計算します。以下で、その理由と具体的な計算の流れを整理します。
この記事でわかること
- 預貯金の相続税評価における「源泉控除額」の考え方
- 復興特別所得税を含める根拠と適用期間
- 具体的な計算の流れ(数値例)
- 同様の処理が必要な他の財産(利付公社債・証券投資信託受益証券など)
- よくある確認ミスと対処法
まず結論:復興特別所得税は「含める」
国税庁の質疑応答事例(財産評価・預貯金の評価)は、次のように明示しています。
平成25年1月1日以降に相続、遺贈または贈与により取得した預貯金の評価における「源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額」には、復興特別所得税の額に相当する金額を含めて計算する。
つまり、既経過利子から差し引く金額は「所得税だけ」ではなく、「所得税+復興特別所得税」の合計額です。
なぜ復興特別所得税を含めるのか
預貯金の財産評価は、課税時期(相続開始日・贈与日)において解約したと仮定した場合に手元に残る金額を基準にします。
具体的には次の算式で評価額を算出します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 預入高 | 課税時期における残高 |
| + 既経過利子の額 | 課税時期現在で解約した場合に受け取れる利息相当額 |
| - 源泉徴収されるべき税額 | 既経過利子に対して課される税額(所得税+復興特別所得税) |
| = 評価額 | 上記の合計 |
ここで「源泉徴収されるべき税額」から復興特別所得税を除いてしまうと、実際に手元に残る金額より高い評価になってしまいます。
復興特別所得税は、平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得について、源泉徴収義務者が所得税と併せて徴収しなければならないとされています。預貯金の利子もその対象です。したがって、実際の解約時に控除される税額は「所得税+復興特別所得税」であり、評価額の計算でも同じ金額を差し引くのが正しい処理です。
具体的な計算の流れ
前提となる数値例
ここでは一般的な定期預金を例に、計算の流れを確認します。
- 預入高:5,000,000円
- 既経過利子の額(税引前):10,000円
- 適用税率:所得税15%、復興特別所得税0.315%、合計15.315%(地方税は別途)
控除する税額の計算
既経過利子10,000円に対して源泉徴収される税額は次のとおりです。
| 税目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 所得税 | 10,000円 × 15% | 1,500円 |
| 復興特別所得税 | 10,000円 × 0.315% | 31円(端数切捨て) |
| 合計(控除額) | 1,531円 |
評価額の算出
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 預入高 | 5,000,000円 |
| + 既経過利子(税引前) | 10,000円 |
| - 源泉徴収税額(所得税+復興特別所得税) | △1,531円 |
| 評価額 | 5,008,469円 |
もし復興特別所得税を含めずに計算すると控除額が1,500円となり、評価額が5,008,500円になります。差額は31円ですが、正しい評価額は復興特別所得税を含めた5,008,469円です。
同様の処理が必要な財産
国税庁の質疑応答事例は、預貯金にとどまらず次の財産にも同じ取扱いが適用されることを明示しています。
| 財産の種類 | 既経過利息等からの控除 |
|---|---|
| 利付公社債 | 「所得税の額に相当する金額」に復興特別所得税を含める |
| 証券投資信託受益証券 | 「所得税の額に相当する金額」に復興特別所得税を含める |
| 預貯金 | 「源泉徴収されるべき所得税の額」に復興特別所得税を含める |
共通する考え方は、実際に解約・換金した場合に控除される税額の全体を差し引くということです。復興特別所得税が徴収される期間(令和19年12月31日まで)である限り、これらの財産評価では一律に含めて計算します。
よくある確認ミス
ミス①:「所得税だけ」で計算してしまう
平成24年以前の評価実務では復興特別所得税が存在しなかったため、古い資料や計算ツールをそのまま使うと所得税のみの控除になる場合があります。平成25年1月1日以降に取得した財産の評価では、必ず復興特別所得税を加算した税率で計算しているか確認してください。
ミス②:住民税(地方税)を含めてしまう
実際の利子受取時には住民税も源泉徴収されますが、財産評価上の「源泉徴収されるべき所得税の額」は国税部分(所得税+復興特別所得税)のみです。住民税相当額は含めません。評価上の控除額と実際の手取り額とは、住民税分だけ差が生じます。
ミス③:適用期間を誤解する
復興特別所得税の源泉徴収は令和19年12月31日まで適用されます。この期間が終わる前に「もう含めなくていい」と判断してしまうミスがあります。令和8年現在、適用期間はまだ続いていますので、引き続き含めて計算してください。
自分で確認できるチェックリスト
相続・遺贈・贈与で預貯金を取得した際、評価額を計算する前に以下を確認してください。
- 取得の日が平成25年1月1日以降かどうか
- 既経過利子の計算に使う利率・日数が正しいか
- 控除する税率が「所得税15%+復興特別所得税0.315%」(合計15.315%)になっているか(利子所得の場合)
- 利付公社債・証券投資信託受益証券も同様の処理を行っているか
- 住民税相当額を誤って控除額に含めていないか
- 使用している計算シートが平成25年以降対応の最新版かどうか
税理士に相談した方がいいケース
- 相続財産に外貨預金・外国債券が含まれており、税率の適用関係が不明な場合
- 定期預金の満期日が課税時期をまたいでおり、既経過利子の計算方法に迷う場合
- 証券会社の残高証明書に記載された利息相当額と、自ら計算した既経過利子が一致しない場合
- 財産の種類が多岐にわたり、財産ごとの評価方法を個別に確認する必要がある場合
こうした場面では、評価額の計算誤りが申告額の差異に直結します。自己判断で進める前に、専門家への確認を検討してください。
よくある質問
平成24年以前に取得した預貯金はどう扱いますか?
平成24年以前の相続・贈与で取得した預貯金には復興特別所得税の徴収制度が存在しないため、所得税のみを控除して評価します。この記事で解説した取扱いは、平成25年1月1日以降の取得分に限られます。
普通預金も同じように計算しますか?
普通預金も原則として同じ考え方です。課税時期現在の残高に、その時点で解約した場合に受け取れる既経過利子を加算し、そこから所得税+復興特別所得税を控除して評価額を算出します。ただし、普通預金の利率が極めて低い場合、既経過利子と税額が実質ゼロに近くなり、残高そのものが評価額となるケースが大半です。
令和19年12月31日を過ぎたら計算方法は変わりますか?
令和19年12月31日以降は復興特別所得税の源泉徴収期間が終了するため、その後に生ずる利子所得については復興特別所得税の徴収がなくなります。評価上の控除額も所得税のみに戻ります。ただし、令和19年以前の期間に対応する既経過利子については引き続き含めて計算することになるため、実務上は期間按分の検討が必要になる場合があります。
利付公社債の評価でも同じ税率を使いますか?
利付公社債の利子所得に対する源泉徴収も、利子所得と同様に所得税+復興特別所得税が対象です。評価上の控除額に復興特別所得税を含める点は預貯金と同じです。ただし、特定公社債かどうか、上場・非上場の別など、評価方法そのものが財産の種類によって異なるため、具体的な計算は個別に確認することをおすすめします。
まとめ
平成25年1月1日以降に相続・遺贈・贈与で取得した預貯金を評価する場合、既経過利子から差し引く「源泉徴収されるべき所得税の額」には復興特別所得税を含めて計算します。これは国税庁の質疑応答事例が明示しており、令和19年12月31日まで適用が続きます。
利付公社債や証券投資信託受益証券でも同じ取扱いです。一方、住民税相当額は含めない点と、平成24年以前の取得分には適用されない点は間違いやすいポイントです。
計算自体はシンプルですが、財産の種類が多いときや外貨建て資産が絡むときは、個別の確認が欠かせません。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
相続税は、財産の種類や相続人の状況によって計算方法や特例の適用が大きく変わります。「うちの場合はどうなるか」を知りたい方は、早めに税理士へご相談されることをおすすめします。
毛利順活税理士事務所では、初回のご相談を無料で承っております。お気軽にお問い合わせください。