「子どもに住宅購入の資金を援助したいが、贈与税がかかるのか不安」「毎年110万円ずつ贈与すれば非課税と聞いたけど、もっと大きな金額を一度に渡したい」——そんな場面で頭を悩ませる方は少なくありません。
贈与税の非課税制度は一つではなく、目的・対象者・金額の上限がそれぞれ異なる複数の制度が並立しています。制度を知らないまま贈与すると、本来かからなかった税が発生したり、逆に期限切れの制度に頼ってしまうリスクもあります。
この記事では、現在使える贈与税の非課税制度を整理し、財産の種類や贈与の目的に応じてどれを選べばよいかの判断軸をお伝えします。
この記事でわかること
- 贈与税の非課税制度にはどのような種類があるか
- 目的・状況ごとに向いている制度の違い
- 各制度の非課税上限・対象者・主な要件
- 制度選択で迷ったとき・税理士に相談すべきケース
まず結論——非課税制度は「目的」で選ぶ
贈与税を非課税にする方法は大きく分けると、次の3つの軸に整理できます。
- 毎年少しずつ渡す——暦年課税の基礎控除(年110万円)
- まとまった金額を一括で渡す(目的限定)——住宅取得資金・結婚・子育て資金の各特例
- 長期的な贈与計画を立てる——相続時精算課税(令和6年以降は年110万円の基礎控除が追加)
「何のために・いくら・いつ渡すか」によって最適な制度が変わります。以下でそれぞれの内容を確認してください。
制度の対象になる人
贈与税の非課税制度は、基本的に直系尊属(祖父母・父母)から直系卑属(子・孫)への贈与を対象とするものが多く、配偶者間や兄弟姉妹間の贈与には使えない制度もあります。また、受贈者の年齢や所得に上限が設けられているケースもあるため、まず自分が対象に該当するかを確認することが重要です。
贈与税の非課税制度 一覧比較
現在利用できる主な制度を比較した表です。制度の概要を確認し、自分の目的に合うものを絞り込む際の参考にしてください。
| 制度名 | 非課税の上限額 | 対象となる贈与の目的 | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| 暦年課税の基礎控除 | 年110万円 | 目的不問 | 受贈者1人あたり年間合計が110万円以下 |
| 住宅取得等資金の贈与(特例) | 最大1,000万円(省エネ等住宅)/ 500万円(それ以外) | 住宅の新築・取得・増改築 | 直系尊属から・受贈者18歳以上・合計所得2,000万円以下 等 |
| 相続時精算課税(基礎控除含む) | 累計2,500万円+年110万円 | 目的不問 | 贈与者は贈与の年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母など、受贈者は同日に18歳以上で、贈与者の直系卑属である推定相続人または孫 |
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 1,000万円(うち結婚費用300万円) | 結婚・出産・育児に関する費用 | 受贈者18歳以上50歳未満・合計所得1,000万円以下 等 |
| 配偶者への居住用不動産の贈与(配偶者控除) | 最大2,000万円 | 居住用不動産または取得資金 | 婚姻期間20年以上・同一配偶者への適用は一生に一度 |
(注)教育資金の一括贈与(1,500万円非課税)は、令和8年3月31日をもって新規の信託等ができなくなりました。同日までに拠出済みの金銭等については引き続き適用されます。
各制度の詳細と判断ポイント
暦年課税の基礎控除(年110万円)
贈与税には、1年間(1月1日〜12月31日)に受け取った財産の合計が110万円以下であれば贈与税がかからないというルールがあります。この基礎控除は特別な申告や手続きが不要で、目的を問わず使える点が最大の特徴です。
ただし、注意が必要なのは「生前贈与加算」のルールです。令和6年1月1日以降の贈与から、相続開始前7年以内に行われた暦年贈与は相続財産に加算されます(従来は3年以内)。延長された4年分(相続開始前3年超7年以内)については、総額100万円まで加算対象外となりますが、長期的な生前贈与計画を立てる場合はこの点を踏まえておく必要があります。
この制度が向いているケース: 少額を毎年コツコツと贈与したい / 贈与の目的が特定されていない / 手続きをできるだけ簡略にしたい
住宅取得等資金の贈与の非課税特例
父母や祖父母など直系尊属から、住宅の新築・取得・増改築のための資金を贈与された場合に適用できる制度です。
非課税の上限額は、令和6年1月1日から令和8年12月31日までの贈与について、省エネ等住宅であれば1,000万円、それ以外の住宅であれば500万円です。
受贈者の主な要件は以下のとおりです。
- 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属であること(配偶者の父母・祖父母からの贈与は対象外。ただし養子縁組している場合は対象)
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
- 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること(床面積40㎡以上50㎡未満の住宅の場合は1,000万円以下)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅の新築等をすること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、または同日後遅滞なく居住することが確実と見込まれること
住宅の主な要件としては、登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下であること、床面積の2分の1以上が受贈者の居住用であること、などが挙げられます。中古住宅の場合は昭和57年1月1日以後に建築されたものであること、または耐震基準に適合することが必要です。
また、この特例を受けるには、贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告書を提出する必要があります。
この制度が向いているケース: 子や孫が住宅を取得するタイミングで資金援助したい / まとまった金額を一度に渡したい
相続時精算課税
贈与者が贈与の年の1月1日時点で60歳以上、受贈者が同日時点で18歳以上の直系卑属(推定相続人または孫)である場合に選択できる制度です。
累計2,500万円を超えるまでは贈与税がかかりません。令和6年1月1日以降の贈与からは、年間110万円の基礎控除が新設されたため、毎年110万円以内の贈与であれば贈与税も相続税への加算もなく、贈与できるようになりました。
ただし、一度選択すると暦年課税に戻ることはできません。また、2,500万円の特別控除を使い切った後の贈与には一律20%の贈与税がかかり、贈与した財産は最終的に相続税の課税対象となります(精算の仕組み)。
この制度が向いているケース: 将来の相続を見越して計画的に財産を移転したい / 収益を生む不動産など、今後価値が上がりそうな財産を早めに渡したい
結婚・子育て資金の一括贈与
18歳以上50歳未満の子や孫が、結婚・出産・育児にかかる費用に充てるため、直系尊属から金融機関等への信託等により一括贈与を受けた場合に、1,000万円(うち結婚費用は300万円)まで非課税となる制度です。
受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合は適用を受けられません。また、50歳になるまでに使いきれなかった残額は贈与税の対象となります。さらに、贈与者が死亡した場合は残額が相続財産に加算される点も把握しておく必要があります。
この制度が向いているケース: 子や孫の結婚・育児をまとまった資金で支援したい / 使途を明確にしながら大きな金額を渡したい
配偶者への居住用不動産の贈与(配偶者控除)
婚姻期間が20年以上の配偶者に対し、居住用不動産またはその取得資金を贈与する場合、最大2,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。贈与税の申告をすることで、暦年課税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できるため、合わせて2,110万円まで贈与税がかかりません(国税庁タックスアンサー No.4452)。
同一の配偶者への適用は一生に一度限りで、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与で取得した居住用不動産(または贈与された金銭で取得した居住用不動産)に実際に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであることが必要です。
この制度が向いているケース: 長年連れ添った配偶者に自宅を贈与したい / 相続対策として居住用不動産を配偶者名義に変更したい
よくある間違いと注意点
「毎年110万円贈与すれば相続税も関係ない」は正確ではない
暦年贈与の基礎控除は毎年使えますが、令和6年1月1日以降の贈与から、相続開始前7年以内のものは相続財産に加算されます。長年にわたって計画的に贈与してきた場合でも、亡くなる直前の7年分は相続税の計算に影響します。
複数の制度を同時に使う場合の確認不足
たとえば「住宅取得資金の特例」と「暦年課税の基礎控除」は併用できますが、「住宅取得資金の特例」と「相続時精算課税」を組み合わせる場合は、要件の確認と申告手続きが複雑になります。また、相続時精算課税を選択した贈与者からの贈与には、暦年課税の基礎控除は適用できません。
申告を忘れると特例が使えない
住宅取得等資金の非課税特例や配偶者控除は、贈与税額がゼロになる場合でも申告書の提出が必要です。申告をしないと特例の適用を受けられないため、「非課税だから申告しなくてよい」という思い込みには注意が必要です。
自分で確認できるチェックリスト
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 贈与の目的(住宅・教育・結婚・老後資金など)を整理した | □ |
| 贈与者・受贈者の年齢・続柄・合計所得の要件を確認した | □ |
| 利用しようとしている制度の申告期限を把握している | □ |
| 暦年贈与の場合、相続開始前7年以内の加算ルールを把握している | □ |
| 制度を複数組み合わせる場合、要件の重複・排除を確認した | □ |
| 非課税でも申告が必要な制度について申告書の準備をしている | □ |
税理士に相談した方がよいケース
- 住宅取得資金の特例と相続時精算課税を組み合わせるなど、複数制度の併用を検討している
- 贈与する財産が不動産や株式など現金以外のもの
- 相続税の課税対象になりそうな規模の財産があり、生前贈与との総合的な節税を検討したい
- 受贈者の所得や居住状況など、要件に該当するかどうかグレーな部分がある
- 贈与者が高齢で、今後の相続との関係も含めて計画を立てたい
- 過去の贈与について申告が漏れていた可能性があり、修正が必要かもしれない
よくある質問
暦年贈与と相続時精算課税は、同じ人への贈与で両方使えますか?
同一の贈与者からの贈与について、暦年課税と相続時精算課税を両方使うことはできません。相続時精算課税を一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に変更できなくなります。ただし、贈与者が複数いる場合(たとえば父と祖父)は、父には相続時精算課税、祖父には暦年課税という使い分けは可能です。
住宅取得資金の特例は、建売住宅の購入でも使えますか?
使えます。新築でも中古でも対象になりますが、中古住宅の場合は昭和57年1月1日以後に建築されたもの、または耐震基準に適合することが必要です。また、床面積が40㎡以上240㎡以下であることや、床面積の2分の1以上が受贈者の居住用であることなどの要件も確認が必要です。
結婚・子育て資金の一括贈与は今からでも始められますか?
平成27年4月1日から令和9年3月31日までの間に金融機関等と結婚・子育て資金管理契約を結んで拠出した場合が対象の制度です(適用期限は令和9年3月31日)。期限までであれば、今から金融機関等で手続きをして贈与を受けることができます。ただし、受贈者の年齢(18歳以上50歳未満)や合計所得(1,000万円以下)などの要件を満たしていることを事前に確認してください。なお、口座に残高がある間に贈与者が亡くなった場合、残額の取り扱いに注意が必要です。
贈与税の申告はいつ・どこにすればいいですか?
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、受贈者の住所地を管轄する税務署へ申告します。住宅取得資金の特例や配偶者控除など、特例を受けるためには必ず申告書の提出が必要です。所得税の確定申告と時期が近いため、早めに準備を進めることをおすすめします。
まとめ
贈与税の非課税制度は、目的・対象者・金額の上限がそれぞれ異なります。
- 目的を問わず毎年使えるのが暦年課税の基礎控除(年110万円)
- 住宅購入のタイミングに合わせてまとまった資金を渡したいなら住宅取得等資金の非課税特例(最大1,000万円)
- 長期的な財産移転を計画するなら相続時精算課税(累計2,500万円+年110万円)
- 婚姻20年以上の配偶者への不動産贈与なら配偶者控除(最大2,000万円)
いずれの制度も、要件を満たさない場合や申告を怠った場合には非課税が適用されないリスクがあります。生前贈与は相続対策と一体で考えることが多く、制度の選択を誤ると将来の相続税計算にも影響します。
本記事は情報提供を目的として作成しており、特定の税務判断を推奨するものではありません。実際の税務処理・申告については、税理士等の専門家にご相談ください。個別事情によって結論が異なる場合があります。
相続税は、財産の種類や相続人の状況によって計算方法や特例の適用が大きく変わります。「うちの場合はどうなるか」を知りたい方は、早めに税理士へご相談されることをおすすめします。
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